煙幕の秘密

FIRST EDITION: 2005-09-16LAST UPDATED: 2012-03-06

はじめに

開けた通りに出くわし小心者の当サイト管理人が進入に躊躇していると後ろから「よし、煙幕だ!」との頼もしい声が!「おお、それは素晴らしい!」と惚れ惚れ眺めていると曲がり角の傍、先頭の隊員の足下に発煙手榴弾/SGがコロコロと……って、ありゃ?

近年のゲームシステムでは「煙幕」に実用性のある効果がつくようになりいろいろな企み事に使えるようになってきました。しかし、ゲーム中での煙幕の使い方はイマイチ研究が進んでいないように感じるわけです。そこで今回は煙幕を使っての悪巧みを考察してみようと思うのです。

煙幕の効果

ここで扱う「煙幕」とは投擲/射出し任意の地点で着弾/発火し数秒間の発煙効果を発する装備全般を指します。煙幕の能力がしっかりと設定されているシステムでは煙幕に次の効果が期待できます。

  1. 発生する煙は視界を阻む効果を持つ
  2. 煙の発生は敵味方問わず周囲のプレイヤーの注意を惹く

この二点は現状のAI相手のCOOPではAIの思考能力の程度によって「効果の発現がまちまち」で考察が進め辛いのが正直な感想です。よって本稿では効果を安定して期待できる「対人戦」に絞って話を進めようと思います。

視界を阻む煙

煙幕の第一の効果は「視界を阻む」という効果です。

視界を阻まれることで最も強く影響を受けるのが支配圏の線引きです。少々強引な例えをするなら発煙地点を境に新たに「壁」ができるわけですから交戦エリアで複雑に重なり合い変化する支配圏を明確に二分し、一時的な整理/安定化を促す効果を発揮します。これが煙幕の最も特徴的な効果です。

ここで問題になるのがその視界を阻む「壁」をどこに建てるかという事です。

揺らぎの要素

煙幕が求められる場合というのは限られています。それはこれから進入しようとするエリアに強力な支配が敷かれている事が予測/判明した場合です。煙幕はその強大な力の一角を崩すために使用されます。

では強力な支配が敷かれたエリア ―― その強さはどこから来るのか?

  1. 支配側戦力で対応できるほどに進入経路が限定されている
  2. 後手進入側が実行するであろう大半の選択肢を常時詳細に追尾/追跡できる
  3. 成功率の高い攻撃手段を持続/維持できる

これが強力な支配を支える要素です。煙幕はこれらの要素、特に 2. に対してカウンター的に作用します。

通常、2.は当該エリアの掩蔽/障害物が増えるほど低下していきますが強力な支配が敷かれているエリアほどこれらの要素が絶望的に欠落している場合がほとんどです。

煙幕はこのような取っ掛かりの少ない難攻の敵支配圏にポッカリと追尾/追跡不可能な空間 ―― 進入側がどう動くか分らない「揺らぎ」の要素 ―― を発生させます。この「揺らぎ」は防御側の思考と選択肢決定時に迷いや戸惑いといったノイズを載せる事に繋がります。

揺らぐ要素は多ければ多いほど支配側のストレスとなり支配に隙が生じます。その隙を最大限に稼ぐために「揺らぐ」要素 ―― つまりは追尾/追跡不可能な空間を広く発生させる事が重要になります。

これが「視界を阻む壁をどこに建てるか」という事を問題にする理由です。

煙幕を焚く地点

よほど特別な状況でない限り交戦エリアの空間サイズは不変です。その限られた空間をどこで仕切るかはその後の双方の支配圏設定と行動選択肢の数に直接的な影響を与えます。

煙幕によって再設定した支配圏が広ければそれだけ豊富な攻撃パターンを手持ちのカードとして取り込むことができます。故に煙幕を使って敵/支配側にストレスをかける場合は発煙地点をなるべく支配側に近い地点(自分から遠く離れた地点)に設定しなければなりません。

煙幕を焚く地点の違い
上段:自分に近い位置/下段:相手に近い位置で焚いた場合。どちらが相手によりストレスをかけるか想像できるだろうか?
fg_smoke_1
fg_smoke_2

冒頭で紹介した自分達の足下に煙幕を焚くアクションは相手側支配力にストレスをかけるどころか逆に自分の支配力を激減させるドッキリ指数の高い行動選択肢といえます。更に付け加えるならこれから進入するルートとタイミングをわざわざ相手に教えているようなもの。しかしこのメッセージ性を上手く使うと……(後述)

煙幕を理想の地点で展開する事に成功したら煙が晴れた後の状況を想定してより強力な支配権主張ができるよう迅速に展開します。もちろん一気にケリをつけるべく突入しても構いませんが相手の行動によっては煙幕の付近には掃射が加えられる事もあるので注意が必要です。

また僅かな隙間から銃口だけを覗かせているような強力な防御陣を相手にする場合も煙幕を使って相当なストレスをかけることができます。

炸裂型の榴弾を使った掩蔽体攻略では、掩蔽体の裏側でGL/FGを炸裂させる事が重要と書きましたが、煙幕の場合は掩蔽体の直前で焚くのが理想です。

覗き窓タイプの防御陣は唯一の目である覗き窓を潰されるとその支配力はほぼ消失します。視界を確保するには掩蔽体から出て煙の前に移動しなければなりません。逆に敵がそのまま立て篭もった場合、煙幕に続けてGL/FGを使用するとシステムによっては回避の機会すら与えずに陣を制圧する事も不可能ではありません。特にRVSでは煙幕にはFBの効果を遮断する能力があり、煙幕を超えてFBを投げ入れるように使用すると突入隊員がFBの影響を受けず(回避行動を取る必要のない)直行突入を仕掛ける事が可能になり非常にダイナミックな展開を味わえます。

煙幕のメッセージ性

煙幕には二つ目の効果として「周囲のプレイヤーの注意を大いに喚起する」効果を持ちます。

現実世界では緊急時に近隣の車輌や航空機などへ存在をアピールするのに発煙装置が用いられる事からもその効力がただならぬ物である事が推測できます。ゲームではこの煙幕の強力なメッセージ性も悪巧みに欠かせない要素となります。

心理戦に持ち込む魔法の煙

想像してください ―― もしあなたが支配側で幾つかある進入経路を監視している際にとある経路からモクモクと煙があがったらどうしますか?

煙幕は「その煙の向こうで”襲撃”が練られている」事を連想させる特別な装備です。この先入観ともいえるイメージを用いて支配側の注意を特定個所に釘付けにして別ルートから同期進入する味方の行動を心理的に隠蔽する事も可能になります。

ただしこれは確実に発揮されるわけではなく敵との読みあいになります。もし読み合いに勝利すれば多少の戦力的な不利を覆す可能性も生まれ、よりゲームに深みが出てきます。その意味で煙幕は単調になりがちなシューティングゲームにより高度な心理戦の要素を呼び込む稀有の装備ともいえます。

もしも煙幕を焚かれたら

煙幕を使用された場合の対処方法も考えてみましょう。

煙幕を使用された場合に(その距離にもよりますが)最も影響を受けるのは正確な照準を必要とする小火器で、特に連射能力/持続力の低い小火器から順にその価値を奪われていきます。最初にその価値を失うのは狙撃システムで最後まで残るのは大型弾倉を装備した軽機関銃LMG類です。またGLなどの擲弾系/一部の Shotgun も依然支配圏の維持にある程度の威力を保ちつづけています。

もしこれらの未だ価値を維持している装備を多数配備しているなら下手に動かず煙の向こうで進む敵の悪巧みに神経を集中させます。逆に大半の装備が価値を失っている場合はそのエリアを放棄する事も含めて大局的に決断せねばなりません。なぜなら読み合いでどのように展開するかは解りませんが、少なくともあなたの周囲で幾つかの脅威が「瞬発力の高い非常に強力な攻撃を”同時に”仕掛けてくる」可能性が高まっているのですから。その一撃を受けて押し返せる能力が自軍にまだ残っているかどうかが決断の主な材料となります。

もちろん敵は一気にケリをつけずに徐々に距離を詰めて煙が晴れた後の競り合いでイニシアティブを取ることを目論んでいるかもしれません。ここがゲームを左右する重要な瞬間です!

その場に留まり支配を維持する場合、防御側にSAW/GPMG/LMGがあるなら、煙幕を焚かれた地点へ牽制の制圧射撃を加えるのも効果的な対抗手段となります。ARで牽制を行う事もできますが読み合いでタイミングを見切られると持続力の関係から肝心の襲撃を押しとどめる事ができなくなります。

後退する場合はその元の陣を敷いていた場所を囲むように再度陣を敷き、煙の向こうから突入/にじり寄ってくる敵を待ち構えます。ただしこれには敵を上回る速度で決断し行動に移さないと移動中の一番中途半端な状態を敵に晒すことになるため注意が必要です。

必要なら新たな陣を再構築するまでの間、敵の注意を惹きつけるために元の陣に若干名を残していく方法もあるでしょう ―― ただし残る人は腹をくくる必要がありますが……

おわりに

支配圏の強力な維持 ―― いわゆる「待ち」戦術はゲームに限らず遥か昔から「手軽で堅い」と言われる戦術です。しかしそれを崩すところに「タクティカル系」の醍醐味があるわけです。そういう中にあって、特に煙幕系の装備SG等は上手く使えば状況を一変させる能力を秘めています。

現実世界では電子戦で敵の観測機器にノイズを乗せ、その効率を低下させる事で優位に立とうとする戦法が当たり前となっているのは皆さんご存知の通り。煙幕は歩兵戦において敵の思考と心理にノイズを乗せることができる地味ながらも非常に効果的な装備である事を知っているとよりゲームに深みが出てきます。

ゲームを楽しく遊ぶためにも是非一度、煙幕の効能について研究してみてはいかがでしょうか。特殊部隊シムのタクティカルな部分を堪能できるよい機会となるはずです。