悪ガキ三匹をこさえるのに必要なモノ

DATE: 2020-05-15CATEGORY:GHOST RECON seriesTAG:,

GHOST RECON BREAKPOINT(以下GRB)に味方となるAITeammate の追加がぼんやりと示されてから随分と経ちますが未だ果たされていません。ネット上ではほとんどあきらめムードになっているんですが、そもそもAITeammate の追加ってそんなに大変なの? というお話。

聴いた話では既にゲーム内ではプレイヤーに随伴するNPCが登場しているという事なので内部的にはそういう機能のクラスメソッド(プログラム)が存在していることになります。実際に観察してみたわけではないので踏み込んでは言えませんが、何もしゃべらずただついて来て適当にぶっ放してくれる人型のドローンもどきならば……たぶんそう手間もかからず追加できそう。

でも、あの時フォーラムで求められたのは GHOST RECON WILDLANDS(以下GRW)で共に旅をした「饒舌な悪ガキども」と同レベルの体験なわけでして。この「饒舌」というのが結構、というかちょっと洒落にならないくらい高いハードルなのではないかと予測してみるわけです。

道中、訊ねてもいないのに何かについて語り始めるAIキャラ。語るからにはそれに関しての「設定」が要求されるわけです。土地や建物、風習などプレイヤーの目に映るもののほとんどに「過去」や「歴史」が要求されるのであります。また、人物の特徴づけ ―― いわゆるキャラ立ちだの相関図だのといった惹きつける設定もここで「堅固」に構築しておく必要があります。一度決めたらもう後戻りはできない極めて重要な工程です。

GRWはボリ○アという現実世界の「過去」に幾つかの演出を加えて移植するだけで良かったんですね。地名に現実の名を与えたその瞬間から「過去」が勝手に自動的についてくるのでありますからこれほど楽なことはない。なにより設定として破綻のない堅牢さがあります。

一方のGRBの舞台アウロア島は架空要素の高い構成で、AIの予定が無かった初期にそこにな~~~~んとなくポチっと配置してしまった建物や山や水源地などにある日突然「過去」の設定を要求される格好になってしまうわけですから、さぁ大変。もし制作する側にいたならば大暴れ間違いなしの追加発注案件の発生です。→作家&デザイナー「先に言えww、そういうことは先に言えwwwww(顔は笑っているが目に殺気が宿ってるアレ」

激戦の末、目に映るモノの過去や経緯の設定が終わったとしても、今度はそれをAIの台詞として適切に表現しないといけないわけで、これが言語化の壁として目の前に高く厚く立ちはだかるわけです。

UBISoft のサイトに対応言語の一覧が載っているんですが、これを書いている時点で視覚的なテキストだけでも 17言語、聴覚にも訴える言語化は 9言語、というのが見て取れます。

時折ゲーム系メディアなどでゲーム翻訳の苦労について特集している記事を見かけますが、視覚だけの、いわゆるテキストの翻訳だけでも結構な作業量になるんだそうで。特に台詞などはゲームのレーティング範囲内でキャラの性格や経緯に沿った言い回しにしながら、加えてその言語が主に使われる地域での「避けなければならない表現」等々を考慮しつつ翻訳し、それでもってチェックしないといけない。

まぁ、ここまでなら(質のバラツキに目を瞑れるなら)翻訳家に丸投げでもなんとかなるかもしれません。

しかしながら、聴覚系のいわゆる声優を起用した音声データを準備するとなると途端に工数が跳ね上がります。その言語ごとに担当者を配置して、現地で声優の募集選定をかけ、ゲーム内の設定の共有と演出の打ち合わせなどを繰り返し行い、場合によっては同じセリフも数パターン収録し、ゲーム内でデータとして破綻する要素がないかをチェックし、データ編集だけではどうにもならない部分が出てくれば再度、声優と追加収録を調整しないといけない。これを 9言語。うへぇ。

プログラム、過去や経緯経歴の設定、翻訳と収録 ―― 「饒舌」で魅力的な悪ガキ三匹を現出するためにこれだけの工程を経なければいけないわけで、国境をまたいで係る人数、拘束する期間、発生する費用、どれをとっても眩暈のするような規模になってそうな感じです。きっと実際はもっと複雑な流れをとるはずですから、ある日突然AIの追加を告げられたGRB制作実行部隊の皆さんにはただただ深い同情の念を抱くわけです。そしてその上で思うのは、ああ、やっぱりGRWは神懸ってたんだなという(結局ココ

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